OLD BEIGE
14 Jul,2023
『ハッピーとコロを連れて公園へ。』
筆まめだった父の文字で
そのビデオテープに書かれたタイトルシールは
こんがりと焼け、
再生するほどにノイズが走り、
レンズの向こうで幼い私を呼ぶ父の声さえも、
香色めいている。
『白茶けているから、もう捨て時よ。』
この白茶けているとは、
今は亡き母からしか未だ聞いたことがない色であり、
我が家で物を捨てる時の基準の一つでもあった。
そんな母の喜ぶ姿が好きだった私は、
お手伝いも好きだった。
我が家のカレーの日には、
台所まで運んだ子供用の椅子の上に立ち、
玉ねぎの入ったお鍋を上から見下ろし延々と炒め続け、
終え時の合図は、
飴色になるまで。
このように、昭和の家庭、少なくとも我が家にまつわるストーリーには、
やはりこれらの色が潜んでいる。
今でこそ、それらの色のワントーンは
女性をなんとも女性らしく魅せ、
いつの間にかコスパの良いモダンな色合わせになったものの、
本来は哀愁を漂わせる、
昨日を語るには欠かせない、
各々の歴史を秘めたそんな色なのである。
写真が好きだった父の形見のバーバリートレンチは、
今も袖を通せないまま
クローゼットに眠っている。
その色はキャメル。
冒頭のビデオに映る白い毛色のハッピーも
やはり思っていたより亜麻色になっていた。